留学経験有りのメーカー勤務、古屋氏(35歳)その10
食事中、「ここは払ってあげますから」と言われたが、その物言いに慣れず、ゾッとした田中。
もう早く切り上げることしか考えられなくなった。
食事の後お店を出たら、今日はこの辺で失礼致します、と言おうと決心していた。
すると古屋氏から、「よろしければ、夕飯も一緒にいかがですか」とまさかのお誘いを受けた。
さっきのお店では、二人でいることが苦痛で田中の顔がひきつっていたに違いない。会話のキャッチボールすらできていなかったのに!!!!
これは社交辞令か何かもう分からないが、田中はここではっきりとお断りしなければと思った。このまま夕飯まで一緒に過ごしたとしても、田中の気持ちが揺らぐことはない。
すかさず、先程伝えようとしていたセリフを言った。そして足早に改札の方へと向かおうとしたときに、「あの、これ沢山持っているのでどうぞ。」と田中に差し出してくれたのは、某私鉄の株主優待切符5枚だった。指定された期日までに、全線無料で乗車できるものだ。
先程も、もうお会いすることがないであろう方にごちそうになるのは気が引けて、自分の分を渡したが、受け取ってもらえなかった。そして、今回も受け取ってしまったら、申し訳ない気持ちになるのが目に見えていた。丁重にお断りをしたが、どうしても渡すつもりだったようでそれ以上は断れなかった。
今日はありがとうございましたと伝え、その場から離れた。
応援してください