キープ要員なのだと自覚の上で臨んだ青木氏との二回目 これ全部、田中のために? その8
約三週間の間、オーネットの掲示板ではブロックはされていないものの、青木氏からはメールの返信がなかったため、田中の立ち位置としてはキープ要員なのだと自覚している。それでも、やはり青木氏にもう一度会いたいと思っていた。あの憂いな雰囲気がなぜか気に入ってしまい、クセになりそうなのだ。そんな気持ちもあり、青木氏からお誘いのメールが来て心底嬉しかった。
二度目にお会いした青木氏は、今回は私がお店を選んで予約しておきますと言ってくれており、お連れ頂いたところは和食のお店だった。前回、田中が和食が好きだと言っていたことを覚えていてくれたようで、この地域では度々雑誌で取り上げられるような有名でおしゃれなところだった。何気ない会話を覚えてくれていたことが何よりも嬉しかった。
「前回お会いしたあとから忙しく、なかなか連絡ができなくてすみませんでした」
開口一番、律儀にそんなことを言ってくれた。
一度会ってから田中のお礼メールに対して何も返信がないことで、あれこれと悩みに悩んでしまっていた。返信がないのは嫌われたのだろうか、それともなんとも思われなかったのだろうか・・・ 立て続けにメールを送ってみようか、いやそれは迷惑だろうか、また無視をされたら・・とそんなことばかり考えていた。だが、こんなに悩んだことはもうどうでもよく、こうしてまた青木氏と会うことができたことが嬉しかった。
飲み物を注文し、料理が運ばれてくるまでの間に、「これ、田中さんが気に入ってくれるかなと思って」と言って、小さめの紙袋を手渡された。
「えっ、何ですか? 見てもいいですか?」と断ってから中身を見てみると、文庫本が7冊入っていた。どれも前回お会いした際に、青木氏が話していたおすすめの小説で、田中がまだ読んだことがないと言っていたものだった。驚きと、田中との会話を覚えていてくれたこと、また、こうして持ってきてくれたことが嬉しくて、お礼を何度も言った。青木氏は照れくさそうに下を向きながら、「良かったら読んでみてください。それ、あの、返さなくてもいいので・・どうぞ」
モゴモゴと消えてしまいそうな声でそうおっしゃった。
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