会話が続かない その2
木村氏と待ち合わせをしていた場所へ行くと、既にお越し頂いていた。拝見していた写真と違いはなく、ご本人だとすぐにわかった。
木村氏は、深々と頭を下げ、丁寧に挨拶をしてくれた。
その日はカフェでお茶をすることにした。田中は川沿いのお洒落な喫茶店を知っていたため、そこへ行くことを提案してみた。そこへ着くまでに10分くらい歩いただろうか、人混みを避けながらだったので仕方がないが、あまり会話が成立しなかった。どうも会話のキャッチボールが続かない。そんな始まりではあったが、お店に入ってから頑張って立て直そうと思った。
そのお店では軽食もあるのだが、木村氏はメニューの飲み物の欄をずっと見ていた。食べる気がないのに勧めてもよくないかな、と思ったが、仕事帰りの19時を過ぎていたので田中はおなかが空いており、「このサンドイッチ、よろしければ頼んで一緒に食べませんか」と聞いてみた。すると、「あ、はい」と同意していただき、注文することになった。
飲み物とサンドイッチが運ばれてくる間、微妙な沈黙が続きそうだったので、「普段、残業されたりするのですか? 今日は、この時間に退社することは大丈夫でしたか?」と聞いてみた。すると、「あ、はい」と返事があったが、それ以上の会話の広がりはなく、また沈黙となりかけた。木村氏はコーヒーを注文されていたので、「普段からコーヒーがお好きですか?」と聞いてみた。「あ、はい」「ここのお店は、サイフォンを使って抽出されるようですよ。このお店、コーヒーがおいしいので私の気に入っているお店の一つです」「あ、そうですか・・」
終始このような感じだったのだが、田中ももう少し黙っていたほうがよかったのかな、と思ったりもした。ガツガツと話しかけたわけではないのだが、一度沈黙となると、次に話し出すのに勇気がいる。そして何よりもこの居心地の悪い空気感・・ 向かい合って座っているのが苦痛に思えてきた。
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