会う約束直前の、このタイミングで その3
仕事帰りに婚活のお相手と会う日は、職場を出るときにはできる限り地味な格好にしている。それは、その後の予定を悟られないためと、先輩女性からの詮索を避けるためである。
待ち合わせまでの時間に、田中は某駅構内にある有料のパウダールームを使用することにしている。そこで、上の服だけ着替えたり、汗を拭いたり、化粧直しをし、髪を整え、歯磨きをし、靴を磨き、最後にハンドクリームを塗る。待ち合わせまでに時間があったため、なんとなく始めたことなのだが、今では習慣となっている。この20分くらいの間に、仕事から離れて気持ちを落ち着かせ、その日に会う方のプロフィールや、その日までに交わしたメッセージの内容を振り返ったり、会ったあとの会話の内容を考えたりするにはちょうどいい時間だ。
ようやくその日もなんとかそれなりに仕上がり、カバンの中も整えておこうとしたとき、携帯にメールが届いていることがわかった。
見てみると鈴木氏からだった。
「田中さん、この時間にすみません。急なお客様対応が長引いてしまって、まだ職場から出ることができていません。そちらに向かうのも、対応を終えてからなので、2時間から2時間半はかかってしまうかもしれません。急で申し訳ない、今日はキャンセルでお願いできますでしょうか」
お仕事が長引いてしまったのは仕方がない。働いているとこういうことはザラにある。鈴木氏に、了承するメールを送った。
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