「ゴメンゴメンゴメン、ゴメンね!!」 その10
その横同士の席が極端に狭いおでん屋さんにて。細川氏がそっと田中のふとももに左手を置いてきた。田中は無言でその手を払いのけた。細川氏はまさかそんなことをされると思っていなかったのだろう。あわよくば、田中が見つめ返し、良い雰囲気になるとでも思っていたのかもしれない。が、その日は初対面。まだ細川氏に対して特別な感情は生まれていなかった。そんなときに触ってこられると拒絶感しかない。次第に不愉快な思いでいっぱいとなり、「私、ここで失礼させていただきますね」と淡々と言い、席を立とうとした。すると、「ゴメンゴメンゴメン、ゴメンね!!」と細川氏はこんな調子だ。もう細川氏に今後会うこともないだろう。ずるずると細川氏のペースに引っ張られることを警戒した田中は、そのお店を出て、急いで駅へ向かった。
もう少し一緒に時間を過ごした方が、相手のことをもっと知る機会にもなると思ったのだが、その日は食事だけで帰れば良かったと自分の行動について反省した。そして軽く見られたこと、触られたことが悔しかった。
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