ふつふつと、こみ上げてきた怒り その11
この話を聞いたときに田中は思わず耳を疑った。病院通いが必要でなかなか治らない犬を山に置いてきた・・ よくそのようなことができたものだと、ふつふつと怒りがこみ上げてきた。ペットを飼うということは、そのようなことがあっても最後まで責任と愛情を持ってお世話をする義務があるはずだ。なんということだろうか・・ 山へ連れて行って置いてきたとき、何も思わなかったのだろうか。今頃おなかを空かせているのではないか・・ いつまでも飼い主のことをを待っているかもしれない・・ 捨てられたと分かってからは人間不信に陥っているかもしれない。何より、皮膚の病気が悪化して、それを我慢していることを考えるといたたまれなくなってしまった。そんなことがよく平気でできたものだ。「山に捨てに行った」とは言わず、「置いてきた」という表現。少なからず、罪の意識を持っているからだろうか。
家族誰一人と反対する者はいなかったのか、それも不思議でならない。そして今、新たに次の犬を飼っているという事実。前の犬を捨てたくせに、それはないだろう。南氏に対して信じられない気持ちでいっぱいとなり、静かにこみ上げてくる怒りを抑えることで必死だった。田中が説教をする立場ではないのは充分理解している。「最後まで世話をせずに山に置いてくるなんて、そんな酷いこと私はできないです。」とだけ伝えたが、南氏からはなんの言葉もなかった。
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