強引な誘い その5
食事を終えて席を立とうとしたら、奧田氏に腕を捕まれてびっくりしてしまった田中。まさか、そんなことをされるとは思っていなかったので、驚きのあまり言葉も出なかった。奧田氏は田中の腕をつかんで、「バイクで来ているんだけど、後ろに乗らない?」と少しかっこつけて言ってきた。
腕をつかみながら、顔を近づけて田中の目をじっと見てきたのが、反射的に目をそらし、とっさに手を払いのけた。そして、触られたことが不愉快に思えてきた。奧田氏は、壁ドンのようなことをしたかっただけかもしれない。が、こういうことは既に付き合っていて、相思相愛の二人だけに通用するものであって、初対面の、あまり好感を持っていない相手にされると、ただの迷惑でしかない。バイクの後ろに乗るなんて考えられない!!!
「電車で帰るので結構です」と冷静に答えた。
すると、「え~、ちょっとくらいいいじゃん、田中さんとバイクで少し走りたくて今日は磨いてきたからさ。バイクも見てもらいたいし!!!ね、ね!!!」と、バイクに乗せようとしきりにこういう言葉を投げかけてくる。田中はそもそも、まだよく知らない方の車や、腰に手を回して乗るバイクには乗りたくない。それにバイクは、ヘルメットを渡されてもかぶることに抵抗があるし、何よりもその日はスカートをはいている。またがって乗るには完全に無理なのだ。
こちらが丁重に断ってもしつこく「15分だけでいいから!!田中さんの家の近くまで送るから!!!」と、押してくる。
スカートでは本当に乗れないのだ。それに家の近くにまで来てもらっても困る。このようなやり取りが10分は続いただろうか。あまりにもしつこくて、「あの、そういう強引なところ、困るんです!!!」と強めに言ってしまった。
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